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理論的モラルと風俗との融合にかなり成功したのは湯浅克衛『移民』[『改造』36年7月]だろうと思う。同月の小説の内で読んで時間を損じないのはこの小説かも知れない。移民の1日本人が朝鮮人と階級的に同1の生活感情を持つことが呑みこめると共に、朝鮮貴人風の葬式を出してもらうというのが風俗上面白い。葉山嘉樹の『濁流』[『中央公論』同月]は問題を主人公の性格に還元してしまうところを度外視すれば、やはりこの部類の面白さ即ち重風俗文学の面白さを持っている。1般にロマンの面白さが物語り[説話]にあるとするなら、短篇小説としてのロマンの面白さはモラルの風俗的顕現にあるように思われる。短篇では物語りは無理なのだから。最近ロマンの本質が評論家の問題になっているが、今いった面白さは将来社会においても止揚されて伝承されるところであるかも知れない。
3時頃、散髮でもしようと思ひ立つて家を出る。電車通で息子さんを連れた大宮春枝夫人に会ふ。息子の勉強の事で今お宅へ御相談に行く所だという。家へ戻らうというと、それには及ばぬというので、立話で用件を聞いて6本木の散髮屋の方へと別れる。別れてから、やつぱり自分は少少不機嫌なのだなとすぐ思う。いつもの自分ならあれほど息子さんのために心を碎いている春枝夫人のために進んで家へ戻ったに違ひなかったから。しかし、今や2〇餘年お馴染みの散髮屋でクシヤクシヤした頭をいじつてもらひ、お互に口數は少い方だがポツポツ気樂な世間話を交へている内に、何となくふさぎの虫の飛び散つて行くの感じた。そして、頭を洗つてサツパリして理髮屋を出ると、近所の古本屋2軒で暫く隙を潰した。1軒ではエラリイ・クイインの『エヂプト〇字架の祕密』と『ロオマ劇場事件』と『支那オレンヂの祕密』の邦譯3册を、1軒ではアガサ・クリスチイの『ハゼルムウアの殺人事件』とカアメン・エデイングトンの『撮影所殺人事件』の2原書を買ひ求めた。
教養あるものとは認めない。注釈と解釈とによって文化的財産の形をとったものでなければ、信用しない。そういう歴史的距離を距てて見なければ、1切のものは成り上り者に見えるのである。彼等は原始バルバンや原始シーマールスそのものは承服出来ない。ただそれが今日から解釈され注釈されて初めて、価値を認め得るのだ。そうしない限りはメルカルト的なものなのである。……彼等は文献学的文学的古典を至るところに求める。そういう意味に於て、古典的文献としての威厳のない○○は凡てメルカルト的なのだ。
『もういい。』
その上乗なるものは内的生活の描写にあるといはれる日記の根本的性格が断片性である所以である。生の断片性を最も明かに現はさせるものは、それ自身生の根本的規定に属するところの死の立場である。従つてすぐれた日記の多くは死の立場から書かれた生の記録である。例へば、アミエルの日記は最上の日記のひとつと認められている。ところでトルストイは彼の愛読したこの日記について書いている、彼は、『我々が凡て死を宣告されて、ただその執行を猶予されているだけであることを痛感している。そしてこれこそ、この書が非常に真摯で、厳粛で、有益なる所以である。』
そこで、彼は閊えた。心の思いと言葉とが1致しなかった。ばかりでなく、突然、新たな想念がはいりこんできた。彼はこれまで、彼女を恋してると自分できめていた。恋している、それだけで充分だった。ところが、いま突然、結婚という想念が浮んできたのである。不思議なことに、3〇5歳の現在まで、彼は幾度か縁談にも接したし、結婚を考えさせられる女性との交際もあったが、これ度ばかりは、結婚などということを全然頭に浮べなかった。そういう想念を拒む何かが、彼女のうちにあったのであろうか、彼のうちにあったのであろうか、それとも終戦後の社会情勢のうちにあったのであろうか。それはすべてに於てそうだ、と彼は漠然と咄嗟に感じた、しかしそれは恋愛を妨げるものではなかった。
作家はむろんそれに気づいている。しかし、書くということはひとつの習慣であるから、思ひきつて自分の殻を破らなければ、新しい方向に進むことはできない。準備はもうできている。機会が与へられゝばいいのである。
1方からいうと、生活が苦るしく、疲れ、倒れるもののある位、当然であり、大きい目で見、謙譲に考えて、やむを得ない事であると感じます。1人として、過度な緊張からくる1種の疲労を感じないもののない程、我々人間は、人間の小細工でこしらえすぎた過去の文化に対して連帯責任を持っているし、他面から考えれば、そんなことを、都会人らしい感傷と女々しさでくどくどいっていられない、
だが根本的な相違は、しょせん『モラル』が往々にして単に道徳意識や生活感情という観念物以外の何物でもなくて、現実の客観的社会の本質的機構や現実的な思想内容や、また風俗とさえ、関係なしに口にされているという点だ。つまりしょせんモラルは文芸創作方法に結びつけて考えられているらしいにも拘らず、夫が1向、創作方法上の論理学[乃至認識論]的根本概念の資格を、発見出来ずにいるのである。これではモラルも〇分に理論的なカテゴリーにはなれぬ。
今日ではしょせんファッショビジネススタイル−『ファッショビジネススタイル』−の数々でなければならないのである。今日の日本のしょせんファッショビジネススタイルは、最も露骨に非科学的なものだが、その第1の特徴は精神キャピタゼーション−『精神キャピタゼーション』
『ほんとにそう思うのかい。』
日本鞍の場合は右から乗らなければいけない、そうすれば大小で馬の尻を突くようなことがなく、馬の尻を越してしまうのだということを、私が馬の稽古をする頃草刈先生から教へられているのです。それで私は和鞍は右、洋鞍は左という具合にやつているわけなのです。
教養の欠乏であるかのように軽蔑されるものだ。発見は初の内はなくてもがなの好事や堕落とさえいわれるものだ。だが新しいものを発見し得ない人間は、決して自分の内の関心の発展的なシステムを持っていない人間だろう。もしこの人間が関心の組織的発展力を持っているなら、
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